【0】

 6畳の和室には洋服が散乱している。

「ヤダ、どれにしよう。決められない。」

 ブツブツと独り言を言いながら、彼女は思い付く洋服を片っ端から出しては鏡の前で着ては、ポーズを変えたり鏡を覗き込んだりしていた。でもどれも彼女にとっては気に入らないようだ。
徐々に選択肢が少なくなって来ているようで、彼女は少し手をとめて山になった洋服を見て考え込んでいた。しばらくそうしていたが、今度は勢いついたように出した洋服を片付けはじめた。

「別に普通でいいぢゃん。」

 結局普通の姿で行く事にしたようだった。

 彼女【由宇】が彼【雅也】に逢うのは一月ぶりになる。3月下旬に彼が転勤で引っ越すまでは、それこそ、普通に付き合っているカップル以上に頻繁に逢っていた。一月も間隔が開くなんていうことは考えられなかった。だから、由宇の舞い上がりようは普通ではない。1週間も前から、どうしようどうしようと考えてあれこれ考えて、寝不足の日々が続いていた。こんなことでは今夜も眠れそうにないだろう。
 その心配はやはり当たったようで、彼女は自分では早くに寝るつもりだったのに、眠れずにいつものようにインターネットで遊んでいた。気掛かりは彼と連絡が着かない事。今朝から一度も携帯に送ったメールに返事が来ない。もしかすると…万一の急な事態でのキャンセルになったらと思うと、連絡が着くまでは眠れないのだった。
 深夜2時前に、気付くと雅也がオンラインになった。やっと連絡が取れる!と少し喜んだが、こんな時間にネットに繋いでいるのはおかしいと、ふとその事にも気付く。ドキドキしながら、由宇は雅也の話し掛ける言葉に答えていた。

「ということで、新幹線です。」

「新幹線にするのね?」

「あい。何時にどこだ?」

「チェックインは10時です。」

「じゃあ10時に○○に集合。」

 相変わらず雅也は淡々とした文章だと思いながらも、予定に変更がない事を確認出来たので、彼女は満足していた。そして、朝5時半起きだという彼は早々に接続を切った。早く眠ろうと努力はしているのに、由宇は全く眠くならなかった。

「これじゃぁ、遠足の前日の子供と一緒だわ。」

それでもあまりに寝不足で化粧ノリの悪い顔で逢うのは耐えられないと思ったのか、午前3時半には無理をしてベッドに入った。それでもしばらくの間、彼女は寝つけなかった。

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